ハウスビルダー(一般住居建築・造園業)6/6:事例1:M&Aの実例
スキームの模索・決定と成功ポイント
一方、明るい材料もありました。
A社の経営企画室長a氏の誠実な対応を、スポンサーであるB社長が信頼してくれたことです。残念ながらA社長の度重なる独断の行動により、A社長に対する信頼は風前の灯火でした。しかし、a氏が求められた財務数値を正確かつ迅速に提出する等、粘り強く対応した為、B社長と信頼関係を構築することができました。そこで、プレパッケージ型民事再生ではなく、第二会社方式をベースとした事業譲渡に近いスキームを選択することにしました。
M&Aの手法に、プレパッケージ型民事再生以外で有効な方法として、第二会社方式があります。第二会社方式の場合、裁判所を通さずに私的に行われる関係で、後々に問題となるリスクがあるので、事前にプロジェクトチームメンバーの弁護士、会計士などと慎重に周到な協議を行いました。
B社長の意向と債権者の状況、A社長の心情も察しながら、法的な問題のチェックを行い、事業譲渡を行い従業員の雇用維持と個人顧客の仕掛中工事の引継ぎに成功しました。もちろん、新会社に賛同してくれた下請け業者の存在もありました。
M&Aのその後
引継ぎからしばらく経った頃、a氏から連絡がありました。B社に移籍したA社の従業員はa氏を含め、皆退職することなく意欲的に働いているとのことです。また、A社長は最後の最後で従業員の雇用を守り、顧客を裏切らなかったことで従業員からは尊敬され、誇りある勇退が出来たようです。
廃業・清算ではなくM&Aを活用することで従業員や取引先を守ることが出来、A社長も安堵されているのではと感じました。
2)M&Aの成功ポイント
最後に、M&Aの成功ポイントをご紹介したいと思います。ご参考にして頂ければと思います。
1.年商規模
・一定以上の年商規模があることが望ましい(年商2億円程度以上)
・企業規模が小さいと打ち手バリエーションが少なく成功率は下がってしまう
2.従業員と取引先の維持(秘密保持)
・従業員や取引先が流出することがないようにする
・出来るだけ通常通りに業務継続をしながら実施する
3.銀行取引状況(資金繰り)
・資金調達が出来る状況が望ましい
・金融機関との関係は非常に重要
4.スポンサー(M&Aの譲受会社)の探索と協力
・スポンサー(譲受会社)の協力を第一に考える
・スポンサーへの情報開示は明確に行い、信頼関係を築く
5.経営者の人柄
・難局を乗り越える決意、覚悟が必要
・明確な情報開示
・柔軟な対応力と誠実な人柄
(第6回終/全6回)
中小企業のM&Aの実例1:ハウスビルダー(一般住居建築・造園業)のケース(第1回)
中小企業のM&Aの実例1:ハウスビルダー(一般住居建築・造園業)のケース(第2回)
中小企業のM&Aの実例1:ハウスビルダー(一般住居建築・造園業)のケース(第3回)
中小企業のM&Aの実例1:ハウスビルダー(一般住居建築・造園業)のケース(第4回)
中小企業のM&Aの実例1:ハウスビルダー(一般住居建築・造園業)のケース(第5回)